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昨日、その公開を心待ちにしていた映画「ドリーム」を観て来ました。これがもう素晴らしいというか、なんというか…… 時は1961年、場所はバージニア州、NASAのラングレー研究所。 当時、宇宙飛行の分野でソ連に遅れをとっていたアメリカは、初の有人地球周回軌道飛行実現のために躍起となっていました。 その陰で3人の黒人女性数学者(キャサリン・G・ジョンソン、メアリー・ジャクソン、ドロシー・ヴォーン)が活躍していたのですが、実は90年代頃まで、NASAで働く人たちさえ彼らの存在を知らなかったそうです。 そのひとり、計算の速さと正確さ、数字の先を読む力において飛びぬけた才能を持つキャサリンは、女性、黒人という壁を越えて、白人男性ばかりのチームに配属されました。 彼女の能力と活躍はずば抜けていましたが、なんと黒人女性用のトイレがオフィスにない。毎度、half a mile away (約800m)も離れた別のビルにある有色人種専用トイレに(これまた規則で決まっているハイヒールで!)駆け込む。 しかも、部屋に備えられたコーヒーポットのひとつにはcolored(有色人種用)と書かれた張り紙が。 1960年代初頭と言えば、まだまだ人種差別が色濃かった頃。64年に公民権法が設立されるまで、南部の多くの州では、仕事場、レストラン、学校、バスなどの公共乗り物、トイレーそういった場所はすべて「白人専用 」と「有色人種専用(colored)」に分けられていました。女性の地位も、今に比べれば、恐ろしく低かった頃です。 彼女は上司のハリソンに涙で実情を訴えた上、ついに爆発します。So, excuse me if I have to go to the restroom a few times day.(このような事情ですから、私が一日に何度かトイレに行くのは許してください) そして、白人男性に色目を使うことも厭わない、自由奔放なメアリー。彼女にはエンジニアになる夢がありました。しかし、たったひとつの資格のためにそれが叶わなかった(そのためには、白人専用の高校で学ぶ必要があったからです)。彼女は仲間にこうこぼします。 Every time we get a chance to get ahead, they move the finish line. (成功するチャンスが与えられるたびに、いつも彼らはゴール地点を変えるのよ→つまりハードルを高くする) 最後に、黒人女性計算手たちを率いる、貫禄たっぷりのドロシー。キルスティン・ダンスト演じる、上から目線のミセス・ミッチェルは意地悪そのものですが、ドロシーは毅然として態度は変えません。しかし、ドロシーのびっくりするような活躍で、最後にミッチェルがドロシーに対し、Mrs. Vaughanとはじめてラストネームで呼ぶ場面は圧巻です(ぜひ、お見逃しなく)。 こういった差別に苦しむ3人が、それぞれの機転を働かせて大胆に道を切り開いていく姿は、ほんとうに清々しくて最高! 自信を得たキャサリンのこの台詞も見逃せません。黒人や女性が虐げられている実情にまったく疎い、上司ハリソンに対し、You are the boss. You just have to act like one, sir.(あなたが上司なのです。しっかりとそれらしく振舞ってください)と、堂々と言ってのけます。 一方、本映画では当時急速に発展したテクノロジーもひとつの見どころです。導入されたばかりの巨大なIBMコンピュターが人間の計算手を上回るか?果たして機械が計算した数字で人間は宇宙を飛行できるか?ーご注目ください。 写真はカリフォルニア、マウンテンビュー市庁舎のある公園。五月晴れのある日、この公園では白人、黒人、ラティーノ、アジア人など多種多様な人たちが憩いを楽しんでいました。 最近、多様性に満ちた寛容な国家というイメージが覆され始めたアメリカ。だからこそ今、「ドリーム」のような映画が必要なのではないでしょうか…… 公開前に邦題がある問題で変更になり、かなりの注目を集めたこの映画。実際は事実と異なる設定も少しあるようですが、史実にストーリーを巧みに絡ませた本映画はほんとうに面白く、お勧めです。ぜひご覧ください。 近著3冊もよろしくお願いします! NYとシリコンバレーに住むキャリアガール姉妹のお話。オフィスと日常で繰り広げられる超リアルな英会話と、すぐ使える簡単でお洒落なフレーズ、映画や女性問題を扱ったコラムが人気です。会話のみ音声は無料で、こちらからダウンロード可能。http://www.daiwashobo.co.jp/book/b286161.html#pagetop ●『英語を話せる人 勉強しても話せない人 たった1つの違い』(青春出版社) 今までの英語学習に疑問がある方、これから子供に英語を学ばせたいママたち、英語を教える先生たちにぜひ読んでいただきたい1冊です。著者の長い英語キャリアを生かして、様々な角度からアドバイスしています。(本屋さんにない場合はアマゾンからどうぞ!) ●『誤訳ゼロトレーニング』(秀和システム) 英語と日本語の文法、表現の違いなどを詳しく知りたい方、翻訳とはどんな職業なのか興味のある方に最適です。表紙のイラストは、人気イラストレーター白根ゆたんぽさんによる、少し?若く描かれた私。 ○プレジデントオンラインに、「プレジデントウーマン10月号」に掲載された私のインタビュー記事がアップされています。 http://president.jp/articles/-/20040 ○おかげさまで、『何でも英語で言ってみる!シンプル英語フレーズ2000』(高橋書店)が、18万部を突破しました!
by kerigarbo
| 2017-10-01 12:44
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【Keri先生のプロフィール】
光藤京子(みつふじきょうこ) 英語コミュニケーション・翻訳関連の執筆家・コンサルタント(TAS & コンサルティング)。会議通訳、翻訳ビジネス、大学講師の経験を生かし、これまで数多くの本を出版している。『働く女性の英語術』(ジャパンタイムズ)、『何でも英語で言ってみる!シンプル英語フレーズ2000』(高橋書店)のほか多数。最新書に『する英語 感じる英語 毎日を楽しく表現する』(ジャパンタイムズ)がある。 お気に入りブログ
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